設計ノートと図面をテーブルに広げた取材風景
Dialogue 01 / After Living

家に帰ってくることが,一番疲れない.

「長い土間に迎えられるすまい」ご主人・奥さまとの対話

House2026.09

竣工から約2年.設計前に書いてもらった設計ノートと,打合せ当時の図面をもう一度テーブルに広げた.建てる前に交わした言葉が,実際の暮らしの中でどう働いているのか.想像していた通りだったこと,住んでから初めて見つかった使い方,まだ答えの出ていないことまで,時間の側から設計を読み返した.

Dialogueは,完成した建築の感想を集めるだけのページではありません.設計前の言葉と,住んだ後に生まれた時間を照らし合わせながら,建築が暮らしの中でどう使われているかを,住まい手と設計者の双方から確かめる記録です.

※会話は内容を変えない範囲で,読みやすさのため一部整理しています.

Before / After

建てる前の言葉と,
暮らしてからの言葉.

Before / 建てる前

「家族が快適に過ごせる」「暖かい,明るい」

After / 暮らしてから

「家に帰ってくることが,一番疲れない.」

Before / 建てる前

「四季の移ろいを楽しめる」「窓から自然を見たい」

After / 暮らしてから

雪が降る朝に窓を開けて,「冬が来たね」と感じる.

Before / 建てる前

「子どもの成長に応じられる」

After / 暮らしてから

まだ仕切らず,秘密基地やお泊まり会の場所として使う.

01 / Before

家にいることが好き,
から始まった.

設計ノートに残っていたのは,「広く,くつろげる」「家族が快適に過ごせる」「暖かい,明るい」「四季の移ろいを楽しめる」といった,部屋の名前よりも暮らしの感覚に近い言葉だった.その根底には,自分たちの拠点をつくりたいという思いがあった.

斉藤

家を建てようと思ったきっかけとして,「自分たちの拠点が欲しい」「家族だけの空間が欲しい」「家にいることが好き」という話を聞いていました.今振り返ると,そのあたりはどうですか?

ご主人

旅行に行ってホテルを決めようとしても,結局「家の方がいいよね」ってなるんです.相当いいホテルじゃないと,かえって疲れてしまう.家に帰ってくることが一番疲れないよね,って.

奥さま

もう完全に身体に馴染んだ感じだよね,と話しています.今でもたまに「いい家だね」って言いますし,飽きが来ないですね.

「家に帰ってくることが,
一番疲れない.」
奥さま

私は実家が平屋でした.その後,夫の実家の2階建てに住んでいた時,双子を抱えて階段を上るのがとても大変で.小さい頃は2階建てに憧れていたんですけど,実際に住んでみたら絶対に平屋がいいなと思っていました.

斉藤

面白いのは,私の方には「平屋にしたい」とはっきり聞いていた記憶があまりないのに,最初の提案から平屋だったことです.暮らし方を聞いていく中で,なるべくしてこの形になったのかもしれませんね.

家づくりの前に住まい手が記した設計ノート
Design Note / Before construction

建てる前の言葉を,
もう一度読む.

設計ノートには,収納や設備の要望だけでなく,「四季の移ろい」「子どもの成長に応じられる」「吹抜けは苦手」「天井は低めでもよい」といった感覚まで残っていた.完成後の暮らしを聞くための出発点として,この日のテーブルにもう一度広げた.

02 / First proposal

言葉にならない暮らしを,
最初の案へ.

斉藤

基本設計の頃の図面を見ると,キッチンの向きや細かな寸法は変わっていますが,家の大枠は最初の提案からほとんど変わっていないですね.

ご主人

最初からだいぶ出来上がっていた感じでした.「ここまで分かるんだ」って,そこがすごかったよね.

斉藤

住宅は,部屋数だけを聞いても設計できません.生活の細かいところまで聞きながら,普段どう動いて,どこで何をしているのかを想像します.最初の段階で少し踏み込んで話せる関係になれるかは,かなり大きいと思います.

具体的な完成像を言葉にしていたわけではない.けれど,平屋で暮らしたいこと,家族で過ごす時間,収納への考え方,高い天井を求めていないこと.断片的な言葉をつないでいくと,最初の平面にはすでに現在の暮らしの骨格が現れていた.

03 / Adjusting

やりたいことを残しながら,
大きさを整える.

斉藤

最初の案をそのまま大きくつくるのではなく,打合せではメジャーで寸法を確認しながら,「ここは少し広すぎるかもしれない」「ここは残したい」と面積を調整していきました.

奥さま

金額のことを考えると,書斎か畳か,何か一つは我慢しなきゃいけないと思っていました.でも結局,最初にやりたかったことが全部入ったんです.だから「もっとこうしておけばよかった」が少ないのかもしれません.

ご主人

今の家の大きさと,自分たちの生活を考えると,本当にちょうどいいよね.

要望を一つずつ削るのではなく,必要な場所の寸法を見直しながら全体を整える.設計の初期に見えていた骨格を保ったまま,暮らしと予算の間に収まる大きさを探していった.

設計ノートを見ながらご夫妻と当時の計画を振り返る取材風景
A model that remains

模型は,今も
暮らしの中にある.

設計中につくった模型は,竣工後もご夫妻の家に残っていた.以前の住まいの玄関にも飾り,「これができるぞ」と眺めていたという.紙とプラスチックでできた小さな模型は,煙突が少し欠けながらも,今も大切に保管されている.

ご主人

古い家の時から玄関にずっと飾っていました.「これができるぞ」って.今もまだ飾っています.

斉藤

大きさは少し調整しましたが,形はほとんど変わっていないですね.カーポート側の斜めの輪郭も最後まで残りました.

ご主人

あの斜めのところ,すごく気に入っていました.雨の日も雪の日も濡れずに車へ行けるし,形としてもここが残って良かったです.

ご夫妻が今も保管している住宅模型
設計図面のそばに置かれた住宅模型
04 / Doma

長い土間は,
暮らしながら用途が増えた.

斉藤

この長い土間を最初に見た時,使い方はすぐ想像できましたか?

ご主人

土間があるだけでも大満足でした.これがしたかったんです.冬は雪でびしょびしょになった服を掛けておけば乾くし,傘も干す.サッカーに持っていくアウトドアチェアやテントもここで干しています.

奥さま

買い物袋がいっぱいあっても,止まらずそのまま奥まで来られる.友達が何人来ても靴を置けますし,人が集まる時も出入りのところでごちゃつかないので,すごくストレスが少ないです.

設計時には「庭へ出る」「薪を運ぶ」「帰宅する」という動きを一本に重ねた土間だった.暮らしてからは,濡れた衣類を乾かす場所,外遊びの道具を扱う場所,大勢の人を迎える場所へと,使われ方が自然に増えている.

玄関から奥へ長く伸びる土間
05 / Fire

火のまわりに,
家族が集まる.

ご主人

薪ストーブは僕の夢でした.最初はそこまで本気で使うつもりではなかったんですけど,今はかなり使っています.停電があっても,これなら直接薪を燃やせるという安心感もあります.

奥さま

私は最初,火事にならないかなって反対派でした(笑).でも付けて良かったと思います.洗濯物もすぐ乾くし,暖かさが普通のストーブと全然違うんですよね.

斉藤

北海道の昔の家には,大きなストーブのまわりに人が集まる生活がありました.不便ではあるけれど,家の中心がはっきりしている.薪ストーブは,そういう北海道の家の原型のようなものを今の住宅に残せる道具でもあると思っています.

ご主人

友達が来た時,男3人でストーブの前に座ってずっと火を見ていたことがあります.ここが中心になる感じはすごく分かりやすいですね.

薪ストーブの火が見える夕景の室内
06 / Tatami

開いても,閉じても,
使える場所.

斉藤

土間に面した畳の場所は,実際にはどう使っていますか?

奥さま

夫の母が泊まりに来た時は,スクリーンを閉じて寝てもらいます.子どもたちも好きで,友達が来ると隠れたり,みんなでカードゲームやボードゲームをしたり.洗濯物を畳んだり,座ってアイロンをかけたりもします.

斉藤

スクリーンを閉じて,中の照明だけが光っていると,行燈みたいでかわいいですよね.

奥さま

そうそう.閉じても使えるし,少し開けて子どもたちが出入りすることもできます.思っていたよりいろんな使い方をしていますね.

土間に面して設けた畳スペース
07 / Growing

まだ,役割を
決め切らない.

奥さま

子ども部屋はまだ仕切っていません.今は秘密基地みたいな感じです.この前はお泊まり会で布団を3つ並べましたし,端から端までサッカーもしています.

奥さま

最近は学習机を使うことも増えて,書斎に来たり,別の場所で遊んだり.少しずつ自分たちで居場所を選ぶようになってきました.

斉藤

最初に真ん中を仕切らなかったことで,今の使い方には合っていますね.構造を担っていない壁や柱もあるので,将来は部屋の使い方を入れ替える余地も残しています.

奥さま

子ども部屋と寝室を入れ替えてもいいし,この後も好きにいじれる感じがします.使いどころが決まり切っていないから,それも楽しみですね.

設計ノートにあった「子どもの成長に応じられる」という言葉は,完成した時点で答えが出るものではない.家族が変化するたびに,その意味も少しずつ変わっていく.

家族それぞれが使える細長い書斎
08 / Seasons

窓の向こうで,
季節を知る.

斉藤

設計ノートには「四季の移ろいを楽しめる」「窓から自然を見たい」とありました.実際に暮らしてみてどうですか?

ご主人

庭はまだこれからなんですけど,冬は雪山をつくって子どもたちが遊びました.朝に雪がたくさん降って,ここを開けて「うわぁ,雪だ」ってなるのはいいですね.天気が分かるし,冬が来たねって感じる.

奥さま

廊下の窓も,時間によってすごくきれいな色になる時があります.葉がある季節と落ちた季節でも,入ってくる光の色が違うんですよね.

斉藤

窓は外を見るだけでなく,外の光を室内へ運んでくれます.隣の白い壁から反射した光まで含めて,周辺の環境に助けられているところもありますね.

道路側から見た長い土間に迎えられるすまい
09 / Comfort

性能は,数字より先に暮らしの実感になる.

奥さま

夏は涼しいです.帰ってきて「もわっ」とする感じがない.前の住まいは夏に家にいる方がつらかったので,それがなくなりました.

ご主人

子どもが窓を開けた瞬間にセミの音が一気に入ってきて,閉めたら聞こえなくなったんです.「こんなに音がしないんだ」ってびっくりしました.

斉藤

この家は特別に遮音だけを強化したわけではありません.断熱材や気密,窓を含めて外皮をきちんとつくることが,温度だけでなく音の感じ方にもつながっています.

ご主人

冬も薪ストーブを夜の間は消していますが,朝になっても極端に冷えない.家の中の温度が大きく動かないのは,暮らしていて楽ですね.

設計ノートを読み返しながら考える取材風景
10 / Places

リビングだけが,
居場所ではない.

斉藤

暮らし始めて,一番よくいる場所はどこですか?

奥さま

ダイニングの椅子にずっと座っていることも多いですね.この椅子が疲れないので,ソファじゃなくても十分なんです.

奥さま

寝室にもみんな集まります.プロジェクターで映画やサッカーを見たり,年越しに紅白を見たり.子どもは別の映像を見て,大人はこっちで見るみたいに使うこともあります.

ご主人

金曜の夜はみんなで寝室に集まって,そのまま寝落ちすることもあります.最初は本当に寝るだけの部屋だと思っていたけど,意外と家族で使う部屋になりました.

斉藤

「ここがリビング」と一つに決めなくても,ダイニング,畳,書斎,寝室と,家の中にいくつか居場所がある方が,その時々で家族の距離を選べますね.

ご主人

最近は料理している時間も好きです.キッチンが広くて,4人分のトレーを並べて全部盛り付けてから「はいどうぞ」って出せる.二人で料理もしやすいですね.

ダイニングとキッチンを中心に複数の居場所がつながる主室
11 / Presence

帰ってくる気配が,
家の中から見える.

奥さま

ここから,子どもたちが遊びから帰ってきて自転車を止めるところが見えるんです.「帰ってきたね」って.顔を見たら,楽しかったのか,ちょっと喧嘩したのかも分かる.

ご主人

家の中にいても,玄関の様子や子ども部屋の気配がなんとなく分かる.だいたい一つながりになっているのがいいですね.

奥さま

夜も車が入ってくると光で分かります.家の明かりが外へ漏れていると「みんないるな」って感じで帰ってこられる.それが楽しいです.

窓は風景を見るためだけではなく,家族の出入りや気配を伝える.住んでから聞いた言葉によって,設計時には説明しきれなかった窓の役割が輪郭を持ちはじめる.

12 / After living

住んでから,
分かったこと.

斉藤

「こうしておけばよかった」と思うところはありますか?

奥さま

本当にあまりないんですよね.友人からは「家は絶対後悔するから,ちゃんと考えた方がいい」と言われていたんですけど,今のところ大きな後悔はないです.強いて言えば,キッチンの収納をもう少し大きくしてもよかったかな,くらいです.

ご主人

畳スペースの照明は,もう少し出幅の小さいものでもよかったかな,と思うことはあります.背の高い人だと少し気になるかもしれないですね.

ご主人

住んでから気づいたのは,雨が降ると屋根の一か所からまとまって落ちることでした.ああやって雨が落ちる景色も,僕は結構好きなんですよね.

斉藤

この屋根は,雨を落としたくないところを避けて,落としてよい場所へ水を落とすようにしています.そのため,場所によっては雨がまとまって落ちるんです.

設計時に決めたことは,完成した瞬間に評価が終わるわけではない.小さな違和感も,思いがけず好きになった現象も,暮らした時間の中で初めて見えてくる.

ご夫妻と設計者が図面を前に話す様子
13 / Dialogue

設計者と直接,
言葉を交わすこと.

斉藤

最後に,これから家を建てる人へ,自分たちの経験から一つ伝えるとしたら何でしょう?

ご主人

設計者と直接コミュニケーションを取れるのは,一番近道だった気がします.間に人が入ると,ニュアンスを伝えるのが難しい.直接話したからこそ,僕らの好みや熱量まで汲み取ってもらえたと思います.

ご主人

僕が無機質なものを好きだという話から,既製の巾木ではなくアルミの見切り材を使う提案が出てきたんです.こちらが「こんな感じがいい」と言ったものを,想像の上で返してくれる.そういうやり取りが嬉しかったですね.

ご主人

途中から,「もうちゃんと投げていいんだ」って思えました.家が建ち始めて打合せがなくなるのが寂しかったくらい,話すのが楽しかったです.

斉藤

同じ言葉でも,表情や話している時の熱量で意味が変わることがあります.住宅では特に,言葉になりきらない部分まで受け取りながら設計したいと思っています.

「想像の上で,返してくれる.」
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