
ここが暮しの根っこ
「森景のすまい」住まい手との対話
一年点検に合わせて,「森景のすまい」を訪ねた.テーブルに並ぶのは,計画途中の図面と模型,そしてお施主様が記録してくださった暮らしの資料.森の見え方を考えて決めた窓の高さは,日々の中でどう感じられているだろう.冬の暖かさや家事の動線,暮らして初めて気づいた細部まで,当時の考えと今の実感を照らし合わせた.
※会話は内容を変えない範囲で,話題の順序や発言を読みやすく整理しています.
建てる前の思いと,
一年を過ごした実感.
森の風景を,家の中から楽しみたい.
足元の花,雪景色,紅葉.どの季節にも,見たい景色がある.
寝室では,主室の音を気にせず休みたい.
扉を閉めると,主室のテレビの音が気にならない.
家の中を,暖かく過ごせるようにしたい.
冬の朝も,薪ストーブを手入れしてから火を入れられる余裕がある.
森を見ることから,
家の形を整える.
最初の図面を見返すと,今のような細長い形ではなかったんですね.森と山の二方向へ開くようにしていました.その後,小さなボリュームをいくつか並べる案を考えていました.
森も山も,ということで考えていましたね.それから,寝る場所には,主室の音が聞こえないようにしてほしかったんです.
それは最初からのご要望でしたね.実際に,この距離を取ることで音は気にならなくなりましたか?
寝室の扉を閉めたら,主室でテレビを見ていても寝室は静かです.この形にして,予算も抑えられたんですか?
基礎の形が凸凹していると費用がかかりますし,大工さんの手間も増えます.もう少しシンプルな形で,同じようなことができないかと考えていました.そうした制約も踏まえて,細長い一つのボリュームを,森の中にそっと据えようと決めていったんです.

低い窓の向こうに,
森の足元が見える.
完成からちょうど一年くらいですね.この家で過ごしてみて,まず思い浮かぶのはどんな場面ですか?
やはり主室の窓ですね.柱にストーブが重なって見えるのもいいです.寝室から森を見る窓は,主室とは違って,囲まれた安心感の中で少しのぞくような感じがあります.
主室は大きく開いていますが,寝室は少し囲まれていますね.森側は低い窓,山の方は高い窓という考え方は,初期の図面にもあります.特に森側は,木の全体よりも足元や花に目が向くように,低く横長の窓にしたいと考えていました.
最初に来た時は,もう少し高い窓だと思っていたんです.でも,慣れてくると,やっぱりこっちの方がいいですね.設計の段階ではよく分かっていなかったんですけど,暮らしてみて,こういう意図だったんだなと実感できました.今でも,飽きないですね.
お風呂の窓も,夕暮れ時に明かりを消して外を見ながら入ると,すごくきれいなんです.普段は扉を開けているので,お風呂に入らない時も,廊下を歩くと奥に景色が見えるんですよね.

撮影:永井博史
花が入れ替わり,
森を歩く日々になる.
この一年で,窓から見る景色が特に印象的だったのは,どの季節ですか?
どの季節もいいんですよ.冬もすごく良くて,雪が積もった朝も.
白いオオバナノエンレイソウもいいんですけど,そのあと黄色いエゾカンゾウに入れ替わるんです.一面に咲くと,すごく元気をもらえます.
写真で見ると,本当に一面ですね.花の時期は短いですけど,次々に楽しめるんですね.
5月下旬の花の時期が一番いいですけど,ほかの季節も楽しめます.以前は夏にはあまり来なかったんですが,今年は毎日森に入って,道を3本つくったんです.草木が茂ると森の中に入りにくくなるので,花を避けて,向こうの川まで行けるようにしました.
自宅の中でハイキングができますね.
一年中入れるようになって,真夏でも手入れができるようになりました.冬にはエゾリスが毎朝来るんですよ.小鳥も来ますし,どの季節も楽しめます.

火を急がなくていい,
冬の朝.
冬の暖かさについて,窓際や寝室,水まわりで,寒いと感じるところはありますか? 朝晩はどうでしょう.
朝,薪ストーブに火をつける時も,すごく寒いわけじゃないんです.灰を掻き出してガラスを磨いて,10分,15分してから火をつけますけど,それが寒くて苦になることはないですね.
いただいた資料にも,ストーブを手入れしてから使うと書いてありましたね.早く火をつけなければ,という感じではないですか?
※施主ご夫妻が室温をこまめに記録してくださっており,取材ではそのデータも見ながら振り返りました.
全然ないです.前のマンションは,床暖房がある部屋以外,特に脱衣所が冬はすごく寒かったんですけど,この家ではそれがない.家の中の温度の変化が少ないのは,すごく快適です.
記録を見ても,主室と寝室で,大きな温度差は出ていないですね.
薪ストーブにして良かったです.私は最初,灯油暖房しか考えていなかったんですけど.薪をつくる手間はありますが,とても暖かいです.
初めの頃から図面にあったような気もしましたが,見返すと,一番最初の案には薪ストーブがないですね.
子供の頃も薪ストーブだったんですが,手入れが大変だったんです.今のものは違うと聞いて取り入れました.火を見ているのも楽しいですね.

外で手を動かし,
家へ戻る流れ.
外から帰ってきて,片付けるまでの流れを教えていただけますか? 例えば,買い物から帰ってきた時はどうしていますか?
水などのストックは,まず玄関右側の内物置に置きます.それからキッチンへ来て,食品の収納と冷蔵庫に収める.ここまでで片付きますね.
森での作業から戻った時はどうでしょう.
カーポート横の外物置に道具があるので,そこで靴を履き替えます.外の水で手を洗ったり,汚れを落としたりしてから入ってきて,洗濯機を置いてある脱衣所やお風呂へ.距離も気にならないです.
洗濯機がもっと手前にあった方が良かったか,ということも気になっていたので,そう伺うとほっとします.
浴室とクローゼットの位置を入れ替えたのも良かったです.浴槽からお湯をくむ時に,左手を使わなければいけないと分かって,すごく心配していたんです.相談したら,逆にすればいいと言ってもらえて.今使っていても,こちらの配置で良かったと思います.
日常のちょっとした動作まで考えることは,大切ですね.キッチンも,コンロが右か左かで使い方が変わります.間取りだけで決めずに,いつもの使い方を聞いて考える必要がありますね.
暮らして初めて,
気づくこともある.
住んでみて,想像と違ったこともお聞きしたいと思います.何かありますか?
細かいところでは,今日見てもらった三面鏡や物干し竿ですね.特に物干し竿は,生活してみて初めて分かりました.付ける前に分かったかと言われると,分からないですね.
三面鏡は,収納の開けやすさを優先すると,今回のような開き方になります.合わせ鏡として使いたいというご希望があるかどうかで,選び方が変わるんです.
三面鏡なら,後ろ姿も見られるものだと思っていました.前のマンションでも特に違和感がなかったので,みんな同じようなものだと思っていたんですよね.
打合せでお話ししたつもりでも,うまく共有できていなかったところですね.
玄関から主室の手すりも,一段二段ならいらないと思っていたんですけど,来た人が壁に手をつくんです.私も,あった方が楽だと思います.住んでみて分かることがありますね.

ここに根を張り,
日々が続いていく.
最後に,ご自身にとって,この家はどんな場所でしょうか?
転勤でいろいろなところを回ってきて,ようやく安住の場所ができたという感じです.
もう,私にとってはここが世界の中心,暮しの根っこを張った場所ですね.
この地区は畑の向こうに日高山脈が見え,四季を通じてとてもきれいで静かなところです.周りの人もフレンドリーかつ多彩な面々で,生活がしやすく楽しいです.室内は年間を通じて温度変化が少なく快適で,大きな窓から移り変わる森の景色を眺めていると,旅行など他のところへ行きたいという気持ちがなくなってきます.この家はまさに暮しの基盤です.
森の方は一年を通して景色を楽しめますね.
本当に快適です.寒くないというのは,いいですね.

